なぜトップダウンでDXを進められないのか

DXを企業変革として見る

DXといえば、その過程で重用する従業員の重み付けをどう変えるか、理想とされる行動規範や能力と現状のギャップにどのように立ち向かうのか、 あるいは所属する構成員の処遇をどうするべきなのかといった議論は身近な問題であって目に行きがちです。 しかし、DXがある種の企業変革の達成を目指す性質から 一般に「企業変革」がどのような道筋をたどるかを知ることは、 始まってしまったその変革の渦中にあって自分自身がどのように振る舞うべきか考えるのに有益だと思います。

企業変革といえばジョン・コッターが有名ですが、近年の彼の研究の振り返り(企業変革に成功する組織は何が違うのか)でも、8割近くの取り組みが失敗に終わっていると分析されております。 この割合をDXにも当てはめるのであればDXがうまく行かなかった経験の方が共感を集めるのもうなずけます。

企業変革力
企業変革力
  • 作者: ジョン P コッター
  • 翻訳: 梅津 祐良
  • 出版社/メーカー: 日経BP
  • 発売日: 2002/4/15

8段階のプロセス

ジョン・コッターは企業変革を8段階のプロセスに整理し、8割近くが失敗に終わる企業変革がどこで躓くのか事例を交えて紹介しました。 この整理で個人的に目を引くのは従業員支配と言われる日本企業を観察対象にしたのではないのにも関わらず(おそらく米国企業中心)、 変革の起点をトップダウンに据えず、組織構成員の啓蒙や腹落ちを通した協力関係の構築を重要視していることです。 組織変更のような大胆な変更は変革の入り口ではなく、小さな成功を積み重ね社内の信頼を得た上で実施することが説かれています。

実際、米国においても一部のスター企業を除けば、採用競争力やリテンションの観点からマネジメントが従業員から見放されないように慎重なコミュニケーションを取っており、トップがDXを強くおせば付和雷同して変革が予定通り進むこともないのが相場とのこと。

つまり、残念ながら"私"(=企業内DX論者)の密かに思い描く最強のDXがトップダウンで承認され、その権威を借りて他の"間違ったDX"を調伏するという流れは古今東西起こり得ないようです。

コッターが示すプロセスでは、そのような奇跡がないとしてDX必要性を組織内で知らしめることを最初に行うべきとしています。

危機感喚起
  • 事業変革の要請を従業員に認めさせる
  • 従業員に新しい機会の提示する
 
チーム結成
  • 推進メンバーを選任する
  • メンバーの活動時間を確保する
 
ビジョン&戦略作成
  • DX後の自社がどうなるか解像度を高める
  • ビジョン実現のための戦略を立てる
 
ビジョン&戦略周知
  • 様々な手段でビジョン・戦略を社内提示する
  • 推進チームが自ら模範事例を作る
 
賛同者発見
  • ビジョンと戦略に合致する従業員を発見する
  • 変革の障害を取り除く
 
短期的成果
  • 業績上で目に見える成果を上げる
    (6-8ヶ月、長くて14ヶ月くらいで業績化)
 
規模拡大
  • 短期成果を積み長期的な変革に移行する
  • 短期成果を信頼の原資に組織や制度を変更する
 
新文化定着
  • 大胆な体制変更を行う
  • 後継者育成と選任する

どこでこけるか?

DXがこけるときに限らないが、管見の限りでは変革において必要性が十分に納得されないまま施策の具体化や行動に移り推進力に欠けたまま尻すぼみになる事が多いようです。ですので、変革に何らかの形で関わることになった場合、 担当レベルであっても周囲に危機感醸成を改めて丁寧に行うことはいくらやっても損はないように思います。

その手段としては説得に関する極めて政治的な手法が役に立ちます。

Wikipediaの項にあるように説得力を構成する要素は様々で、その効能も受け取り手によって異なります。具体的な行動指示が絶大に効果を発揮する同僚もいれば、十分に抽象化された話の方に安心感を覚える上司もいます。 しかし、仕事(DX)をどのように進めればよいかわからない"顧客"に「ソリューション」を提示するわけだから、 おおよそBtoB商材の提案書づくりの枠組みをうまく応用できます。

例えば、伝わる提案書の書き方(スライド付)では、受け手が考える避けたい失敗の解像度を高めることと自身の提案がそれを避けられることの安心感を与えることの重要性を強調しています。 提案が「社内に散らばるアナログデータのデジタル化」であればSansanのCMのような仕立て、 「業務の標準化」であればKintoneの車内広告から学べることが多くあるかもしれません。

その他の参考書

この他の取り組み方にあたってはコッターの本書をあたるのがよいと思います。

しかし、コッターの著書があまりにも事例的で体系化が足りないと感じるのであれば、日本企業での知見をまとめた本があります。

企業変革の実務
企業変革の実務
  • 作者: 小森 哲郎
  • 出版社/メーカー: ダイヤモンド社
  • 発売日: 2018/11/21

また、半沢直樹調の物語で企業変革を読みたければ三枝三部作が良いです。変革障害の放逐にも言及があり、自分自身の振り返りにもなります。

V字回復の経営
V字回復の経営
  • 作者: 三枝 匡
  • 出版社/メーカー: 日経BP
  • 発売日: 2021/4/2

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