リモートワーク主体・給与体系が超透明で有名なGitlabですが、スタートアップ買収のプロセスまで透明になっています。
このディールフローは、
投資実行にいたらないまでも、VCが保有するディールフロー・投資候補の企業群リストそのものに価値があったりする。等々言われていたりして、一子相伝だったり、門外不出だったりします。 実際のところ、ガイドラインはあるもののカチッと字にして標準化しろ, PDCAしろと言われると辛いものがあるせいかもしれません。
deal flow, ディールフロー | VCレスキュー(仮)
投資の対象
スタートアップへの投資の目的は通常Financial Investment(財務リターンの追求)とStrategic Investment(戦略リターンの追求)の2つに分類されております。
事業会社(メーカー等を中心とした投資専業じゃない会社)がスタートアップへ投資する場合は、CVC(Corporate Venture Capital)を組織し、そこから投資することもままあり、 特に日系のCVCは「事業提携を狙いとしたStrategic Investment」を目的として唄い、 財務部門や開発部門から人をローテーションで集めるなどして対応にあたることも少なくないように見えます。
対して、欧米系のCVCはスタートアップ投資への打席に立ち続けることを重視し、「Financial Investment」に比重を置くことが多いように見えます。 CVCのメンバーはVCなど金融系(の投資系)のキャリアが背景にあるメンバーを雇って、本体と独立で動くパターンが多いと思います。
もちろん、Financial Investmentに比重をおいているファンドであっても、金が儲かるならどこでも投資するというわけではなく、 ファンド自身の差別化をはかるためにも、事業部門との何らかの関係が見込める投資テーマを持っています。
例えば、シリコンバレーのベンチャーキャピタルの、5つの秘密と成功の秘訣 | 500 Startups Japanでは、ファンドに対し「1.何かの象徴として認識されるようになれ=ブランドになれ」ということと、 「2. 投資Thesis(ポリシー・理論)を持て=投資基準を明確にせよ」ということを挙げています。
Gitlabでは?
さて、この点、Gitlabは投資(買収先)スタートアップを
- 社員数10名以下
- Gitlabの長期開発戦略(3年)に合致すること
としており、
- シードステージ対象
- プラダクトの開発加速を狙いとしたAcqui-hiring(Strategic Investment)
を活動のガイドラインとして位置付けています。早い話が、スタートアップ買収を採用活動の一環としてやっているということです。
実施部門はCorporate developmentですね。
ディールフロー
通常スタートアップ投資は、たくさんの会社情報を集めて相対評価しながらふるいをかけながら進めます。東証と違って非公開株式を扱うので相場観の形成は属人的です。普段からたくさん見ておくことが大事なのでしょう。 さまざまな事情で「絶対ここに投資するんだい」と決めてから、一生懸命理屈をつけていく場合もあるようですが…。
ディールフローはどこも似ていてざっくり
- ソーシング/テーマ決め
- 候補リストの作成/声かけ(提案)
- デューデリジェンス; 会社の身体検査
- 投資実行
という流れです。こちらも様々な事情によりソーシングの時点でかなり的が絞られているパターンもあるようです。
先日読んだ「経営パワーの危機」では、
リスク投資ばかりを行う米国のベンチャーキャピタルはディールフローと呼んで広い情報網から案件を集め、一〇〇件に一件くらいの割で厳選する。
三枝 匡. 経営パワーの危機 日本経済新聞社. Kindle 版.
とあって、100件はどこの数字かなと思いながら読んでいました。ちなみに、本書では
面白い投資先があまり見つからなくて数少ない投資案件から選ばざるを得ませんでした
三枝 匡. 経営パワーの危機 日本経済新聞社. Kindle 版.
と、投資失敗の風景が描かれています。1の時点で頑なになりすぎるのも良くないようですね。
Gitlabでは?
量が多いので超訳とともに、ざっくり抜粋します。
ディールフロー
これに対してGitlabのディールフローは以下のようです。
- Pipeline Building
- (CrunchbaseのDBなど)マスターリストに掲載されている会社数: 15,000+社
- プロジェクトで投資検討対象にする会社数: 1,000社
- 社外データ: 800社
- 社内情報: 100社
- Cooperate Development部で作成する候補: 100社
- 投資検討優先会社: 400社
- Exploratory
- 投資提案会社数: 400社
- 意思確認・会社の状況確認: 300社
- 絞り込み(優先づけ): 100社
- 事業部門同席との絞り込み・投資先への技術的質疑応答: 50社
- Early Diligence
- 投資検討: 30社
- Confirmatory Due Diligence
- 投資条件交渉: 15社
- Integration
- 投資実行: 10社
1. Pipeline Buildingで何をするか
商品企画チームとM&Aを通した強化が必要そうな分野を特定する。活動を通して買収検討リストを作成する。
- Crunchbaseなどスタートアップ情報が載っているデータベースからどういった分野がホットか眺めて絞る
- Gitlab社社員や知り合いなどにコンタクトがあったスタートアップ情報を集める
- Gitlab社の長期ビジョンや戦略に応じて調査をかける
2. Exploratory
お互いの方向性や買収そのものがマッチするかどうかの確認。統合のイメージ感も検討。
3. Early Diligence
買収検討着手。検討期間中はコードネームをつけるらしい。
- NDA締結
- チームと責任者(リード)の設定
- Preliminary diligence
各種情報の整理
- Financials
- 財務3表
- 税務状況
- Employees
- 社員名簿: 名前・役職・人気・在籍年数・勤務地・給与・LinkedInプロファイル・プログラミング能力など
- 社員の履歴書
- 雇用契約書・知財権譲渡契約
- 取引先情報
- 顧客情報: 名前・月間売上・契約日
- サプライヤ情報: 月間支出
- 資産
- 買収で取り込む有形・無形資産
- 買収では除外される有形・無形資産
- Tecnical BOM / 技術資産
ソフトウェア、データ、SNSアカウント等々
- Financials
- Early technical diligence
コードレビューやOSS利用状況、開発規約等のレビュー
- 従業員のレビュー(キーパーソンの特定等)
- 給与など待遇のレビュー
- 開発状況に関するインタビュー
対象: キーパーソン
- 製品統合のマイルストーン検討
- ROIの算定
- 企画の作成・社内承認
- 買収条件の調整(Term Sheet)
4. Confirmatory Due Diligence
本格的なデューディリジェンス. 以下略.
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