ナイキストの安定判別法と小ゲイン定理

Posted on 8/18/2020
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H∞制御の中心的役割を担う小ゲイン定理で求める制御安定(十分)条件はナイキストの安定判別法などから求まる必要十分な安定条件よりも保守的な条件として知られている。

一巡伝達関数
\[ P(s) = \frac{K_p}{\tau s+1}e^{-Ls} \]
で与えられる閉ループ系が安定であるための$K_p$の条件を求めよ

ナイキスト線図を用いて安定条件を求めます。PI制御チューニング : Ziegler Nicholsの限界感度法 - むだ時間ありの1次遅れ系への適用から、

\[ K_p \in \left[0, \sqrt{(\tau \omega_0)^2 + 1}\right) \qquad s.t. \arctan(\tau \omega_0) = \pi - L \omega_0 \]

小ゲイン定理では

\[ \Vert P(j\omega) \Vert_{\infty} < 1 \]
となる$ K_p $の範囲が求める範囲。線形時不変システムでは
\[ \Vert P(j\omega) \Vert_{\infty} = \sup_\omega \vert P(j\omega) \vert < 1 \]
です。これから
\[ \Vert P(j\omega) \Vert_{\infty} = \sup_\omega \left| \frac{K_p}{\sqrt{(\tau \omega)^2 + 1}} \right| = K_p \]
なので
\[ K_p \in [0, 1) \]
ここで、$\omega, \tau > 0$なので明らかに$[0,1)\subset{\left[0, \sqrt{(\tau \omega_0)^2 + 1}\right)}$であって、 保守的な条件になっていることがわかります。

ベンチャー投資のディールフロー (Gitlab社の公開資料より)

Posted on 8/16/2020
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リモートワーク主体・給与体系が超透明で有名なGitlabですが、スタートアップ買収のプロセスまで透明になっています。

このディールフローは、

投資実行にいたらないまでも、VCが保有するディールフロー・投資候補の企業群リストそのものに価値があったりする。
deal flow, ディールフロー | VCレスキュー(仮)
等々言われていたりして、一子相伝だったり、門外不出だったりします。 実際のところ、ガイドラインはあるもののカチッと字にして標準化しろ, PDCAしろと言われると辛いものがあるせいかもしれません。

投資の対象

スタートアップへの投資の目的は通常Financial Investment(財務リターンの追求)とStrategic Investment(戦略リターンの追求)の2つに分類されております。

事業会社(メーカー等を中心とした投資専業じゃない会社)がスタートアップへ投資する場合は、CVC(Corporate Venture Capital)を組織し、そこから投資することもままあり、 特に日系のCVCは「事業提携を狙いとしたStrategic Investment」を目的として唄い、 財務部門や開発部門から人をローテーションで集めるなどして対応にあたることも少なくないように見えます。

対して、欧米系のCVCはスタートアップ投資への打席に立ち続けることを重視し、「Financial Investment」に比重を置くことが多いように見えます。 CVCのメンバーはVCなど金融系(の投資系)のキャリアが背景にあるメンバーを雇って、本体と独立で動くパターンが多いと思います。

もちろん、Financial Investmentに比重をおいているファンドであっても、金が儲かるならどこでも投資するというわけではなく、 ファンド自身の差別化をはかるためにも、事業部門との何らかの関係が見込める投資テーマを持っています。

例えば、シリコンバレーのベンチャーキャピタルの、5つの秘密と成功の秘訣 | 500 Startups Japanでは、ファンドに対し「1.何かの象徴として認識されるようになれ=ブランドになれ」ということと、 「2. 投資Thesis(ポリシー・理論)を持て=投資基準を明確にせよ」ということを挙げています。

Gitlabでは?

さて、この点、Gitlabは投資(買収先)スタートアップを

  • 社員数10名以下
  • Gitlabの長期開発戦略(3年)に合致すること

としており、

  • シードステージ対象
  • プラダクトの開発加速を狙いとしたAcqui-hiring(Strategic Investment)

を活動のガイドラインとして位置付けています。早い話が、スタートアップ買収を採用活動の一環としてやっているということです。

実施部門はCorporate developmentですね。

ディールフロー

通常スタートアップ投資は、たくさんの会社情報を集めて相対評価しながらふるいをかけながら進めます。東証と違って非公開株式を扱うので相場観の形成は属人的です。普段からたくさん見ておくことが大事なのでしょう。 さまざまな事情で「絶対ここに投資するんだい」と決めてから、一生懸命理屈をつけていく場合もあるようですが…。

ディールフローはどこも似ていてざっくり

  1. ソーシング/テーマ決め
  2. 候補リストの作成/声かけ(提案)
  3. デューデリジェンス; 会社の身体検査
  4. 投資実行

という流れです。こちらも様々な事情によりソーシングの時点でかなり的が絞られているパターンもあるようです。

先日読んだ「経営パワーの危機」では、

リスク投資ばかりを行う米国のベンチャーキャピタルはディールフローと呼んで広い情報網から案件を集め、一〇〇件に一件くらいの割で厳選する。
三枝 匡. 経営パワーの危機 日本経済新聞社. Kindle 版.

とあって、100件はどこの数字かなと思いながら読んでいました。ちなみに、本書では

面白い投資先があまり見つからなくて数少ない投資案件から選ばざるを得ませんでした
三枝 匡. 経営パワーの危機 日本経済新聞社. Kindle 版.

と、投資失敗の風景が描かれています。1の時点で頑なになりすぎるのも良くないようですね。

Gitlabでは?

量が多いので超訳とともに、ざっくり抜粋します。

ディールフロー

これに対してGitlabのディールフローは以下のようです。

  1. Pipeline Building
    • (CrunchbaseのDBなど)マスターリストに掲載されている会社数: 15,000+社
    • プロジェクトで投資検討対象にする会社数: 1,000社
      • 社外データ: 800社
      • 社内情報: 100社
      • Cooperate Development部で作成する候補: 100社
    • 投資検討優先会社: 400社
  2. Exploratory
    • 投資提案会社数: 400社
    • 意思確認・会社の状況確認: 300社
    • 絞り込み(優先づけ): 100社
    • 事業部門同席との絞り込み・投資先への技術的質疑応答: 50社
  3. Early Diligence
    • 投資検討: 30社
  4. Confirmatory Due Diligence
    • 投資条件交渉: 15社
  5. Integration
    • 投資実行: 10社

1. Pipeline Buildingで何をするか

商品企画チームとM&Aを通した強化が必要そうな分野を特定する。活動を通して買収検討リストを作成する。

  1. Crunchbaseなどスタートアップ情報が載っているデータベースからどういった分野がホットか眺めて絞る
  2. Gitlab社社員や知り合いなどにコンタクトがあったスタートアップ情報を集める
  3. Gitlab社の長期ビジョンや戦略に応じて調査をかける

2. Exploratory

お互いの方向性や買収そのものがマッチするかどうかの確認。統合のイメージ感も検討。

3. Early Diligence

買収検討着手。検討期間中はコードネームをつけるらしい。

  1. NDA締結
  2. チームと責任者(リード)の設定
  3. Preliminary diligence
    各種情報の整理
    1. Financials
      • 財務3表
      • 税務状況
    2. Employees
      • 社員名簿: 名前・役職・人気・在籍年数・勤務地・給与・LinkedInプロファイル・プログラミング能力など
      • 社員の履歴書
      • 雇用契約書・知財権譲渡契約
    3. 取引先情報
      • 顧客情報: 名前・月間売上・契約日
      • サプライヤ情報: 月間支出
    4. 資産
      • 買収で取り込む有形・無形資産
      • 買収では除外される有形・無形資産
    5. Tecnical BOM / 技術資産
      ソフトウェア、データ、SNSアカウント等々
  4. Early technical diligence
    コードレビューやOSS利用状況、開発規約等のレビュー
  5. 従業員のレビュー(キーパーソンの特定等)
  6. 給与など待遇のレビュー
  7. 開発状況に関するインタビュー
    対象: キーパーソン
  8. 製品統合のマイルストーン検討
  9. ROIの算定
  10. 企画の作成・社内承認
  11. 買収条件の調整(Term Sheeet)

4. Confirmatory Due Diligence

本格的なデューディリジェンス. 以下略.

参考文献

  1. ベンチャーキャピタルの仕組みとディールソーシングの重要性:とむさとうのコラム集
  2. CVC : ベンチャーキャピタリストへの道
  3. Acquisition Process | GitLab

カルマンフィルタの誤差共分散の意味

Posted on 8/13/2020
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先日、逐次ベイズ推定とカルマンフィルタにて、ベイズ推定とカルマンフィルタの関係を考察したが、「誤差の共分散」が何を表すのか深く考えないでいた。68–95–99.7則から「共分散すなわち $ \sigma $ の多変量版」だから、68%確率円(気象庁|台風情報の種類と表現方法) くらいに思っていたが、甘かったのでした。

おかげで、カルマンフィルタにおける誤差楕円の計算方法 - MyEnigmaを拝見した時に、意気がったツイートをしてしまったのですが、私のほうが違っていたのでお詫び申し上げます。すみませんでした!!

正規分布と確率

1次元

確率変数Xがスカラーで、1次元の場合を考えます。

\[ X \sim \mathcal{N}(\mu, \sigma^2) \qquad \sigma \in \mathbb{R}^+ \]

このとき、$ X $ が閉区間 $ [\mu -a \sigma, \mu + a \sigma] $ (ただし、$ a \in \mathbb{R}^+ $) に収まる確率は、標準正規分布の累積密度関数 $ \Phi(x) $ を用いて

\[ \text{Pr}(|X - \mu |\leq a \sigma) = \Phi(a) - \Phi(-a) = erf(\frac{a}{\sqrt{2}}) \]
(厳密には半開区間だが、下限の等号の有無は気にしない方が多いようなので…)

あとは標準正規分布表やらerfやらを用いると「$ 3 \sigma $ の範囲に99.7%に収まる」などが求まります。「何が範囲に収まるんですか?」というところについては、 カルマンフィルタの予測ステップなりフィルタステップなりで得られた事後分布 $ \mathcal{N}(\hat{\mu}, \sigma) $ に対して、確信区間という形で「真値が収まる確率」という解釈で良いでしょう。

erfの逆関数を用いる形で任意の確率について、aを求めることができます。

多次元

さて、k次元の場合に移ります。まず、おさらいで、多変量正規分布の確率密度分布は、

\[ f(\mathbf{x}) = \mathcal{N}_k(\textbf{x}|\mathbf{\mu}, \Sigma) =\left(\frac{1}{2\pi}\right)^{k/2}|\Sigma|^{-1/2}\exp\{-\frac{1}{2}(\textbf{x}-\mathbf{\mu})'\Sigma^{-1}(\textbf{x}-\mathbf{\mu})\} \]
のように定義されます。1次元のときと同様に閉区間にあたるものを定義したいですね。 expの中の項に注目すると $ (\textbf{x}-\mathbf{\mu})'\Sigma^{-1}(\textbf{x}-\mathbf{\mu}) $ が目に付きます。 この値が等しいときは確率密度 $ f(\cdot) $ も等しくなるわけですね。 $ \sqrt{(\textbf{x}-\mathbf{\mu})'\Sigma^{-1}(\textbf{x}-\mathbf{\mu})} $ はマハラノビス距離と呼ばれていて、 マハラノビス距離が($ \mathbf{\mu}$から)等距離のベクトルはk次元の楕円の表面上にあります。 ここから、
\[ g(d) = \text{Pr}\{(\textbf{x}-\mathbf{\mu})'\Sigma^{-1}(\textbf{x}-\mathbf{\mu}) \le d\} \]
と、dと確率を結びつける関数g(1次元の例ではerf)を知りたくなります。 さて、これについては証明は参考文献[1]に讓りますが、自由度kのカイ二乗分布を用いて下記の関係があります。
\[ \text{Pr}\{(\textbf{x}-\mathbf{\mu})'\Sigma^{-1}(\textbf{x}-\mathbf{\mu}) \le \chi^2_{k,\alpha}\}=1-\alpha \]
したがって、カイ二乗分布の累積密度関数の逆関数を使えば、k次元の正規分布について確率 $ \alpha $とマハラノビス距離を結び付けられそうですね。 よって、カルマンフィルタで求めた正規分布$ p(x_n \vert Y_n) = \mathcal{N}(x_n \vert \hat{x}_{n|n}, P_{n|n}) , x_n \in \mathbb{R}^k $ などに対しては、 自由度kのカイ二乗分布を使って誤差楕円を求められそうです。 具体的な方法は、こちらの神サイトを御覧ください。カルマンフィルタにおける誤差楕円の計算方法 - MyEnigma

カルマンフィルタ誤差の共分散の意味

というわけで、68–95–99.7則の感覚で意味づけすることを考えると

\[ \text{Pr}\{(x-\hat{x})'P^{-1}(x-\hat{x}) \le n^2 \} \quad n = 1\ or\ 3 \]
などと一般化した上で、 $ P_{t|t} $ (あるいは $ P_{t|t-1} $) の次元に応じて「真値がXX%の確率で収まる確信区間」という意味でした。 XX%の下りは参考に以下を御覧ください(次元の呪いっぽいものも見えます。)

次元   1σ(?) 3σ(?)
1 68.3% 99.7%
2 39.3% 98.9%
3 19.9% 97.1%
4 9.0% 93.9%

というか、ひょっとしてモデルの次元が高まるほど真値が楕円の中心に来る確率は限りなく低くなってくるのか…?

参考

  1. N-DIMENSIONAL CUMULATIVE FUNCTION, AND OTHER USEFUL FACTS ABOUT GAUSSIANS AND NORMAL DENSITIES
  2. 4.3 - Exponent of Multivariate Normal Distribution | STAT 505
  3. カイ2乗分布 - 高精度計算サイト
  4. 高次元空間中の正規分布は超球面状に分布する - Qiita